香港人という『スペシャルID 特殊身分』◇ドニー・イェンが闘った真の相手とは?

中国本土から来た知人に、

香港の書店主拉致事件のことを聞いたら
「あれは全部香港マフィアの仕業」
といってはばからなかったのに
正直驚きました。
しかし、
この映画を見て、彼の思考回路が
わかった気がします。

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「オレ…こんな撮影疲れた」

DonnieYen.asia » Donnie takes 4 hours for tattoo

(タトゥーの絵付けには4時間を要したそうですが…チベット文字逆だから

 

2 どんな映画? (ネタバレ注意)


ラブコメしか撮れないクラレンス・フォ監督による。
(悲しき香港人。しかも撮影サボったらしい)

香港の腕っ節だけ強いマザコン潜入捜査官
(ドニー・イェン)が、
本土広東省の鼻持ちならないエリート女刑事に
終始振り回される。
女刑事はカマキリのように細く、
動きもトロいのに、
説得力のないアクションで無駄な大活躍。
宇宙無双なはずの主役の時間を奪い続ける。
はてはマンションの屋上で
捜査官と空気銃で撃ち合いしたりして
イチャつく。
(これまた説得力なし。
極めて上昇志向の強い中国エリートが
「特殊身分」の落ちこぼれ香港人を
相手にするなんて、ファンタジー未満)

最後に捜査官は犯人を絞め技にて捕獲、
女刑事から香港警官として復帰が
言い渡され小躍りして喜ぶ。

あーあ。

 


3 ポイントは?


香港・中国の合作映画の失敗例。

アンチ香港の大陸映画の見本。

中国の映画検閲は、
日本兵をアホに描くようにと
指示しているようですが、

中国の有力紙「南方週末」(2013年3月7日付)によると、ある中国人映画監督は、検閲機関から80項目以上にわたる「改訂意見書」を受け取ったことがあるという。そこには、「日本軍の残虐性、残忍性を強調するのはいいが、日本軍の軍事的クオリティに言及してはならない」などの指示書きがあった。その映画監督は、「日本人は簡略化し、白痴化して描くべし」との結論を得たと記事で語っている。

 中国映画検閲機関 日本人を簡略に白痴化し描けと監督に指示│NEWSポストセブン

 

このマニュアルって

ひょっとしてオプションか何かで
香港人もその対象なの??
とにかくひどい、ひどすぎる。

 

香港=黒社会
本土=白社会

 

香港=マフィアが強い
本土=警察が正義を守る

 

香港=混沌かつ残酷、雀荘と暴動
道路が混雑
本土=綺麗で平和(香港人が乱さねば)、
道路がでかくて平和(香港人がいなければ)

 

香港人=バカ、単純、喧嘩っ早い、
北京語もろくに話せない、落ちこぼれ


本土人=エリート、美人、強い、
英語も広東語も、北京語もOK

 

香港の捜査官=部下、
非正規社員のような「特殊身分」
マザコンで幼稚な男


本土の女刑事=上司、
香港を指導し助ける存在、
強くかつ繊細

 

香港人=老頭児(ロートル)

本土人=若くて前途洋々

(誓って言いますがわたしは

ドニーさんの年齢がどうこう

言いたいのではなく、

あたかも50才を前に

正規の警官に戻りたがっている男

みたいな描かれ方しているのに

ムカついてんですよ。

個人的には、

年齢を重ねた彼のほうが

若い頃より色気を感じます。

ただ、それをあんまり若すぎる

タレントと組ませると

不自然さがめだってヘン。

(その点『イップ・マン』の

奥さん役のリン・ホンは

大人っぽくて知的だから合格)


香港に散々お世話になってる
ドニー・イェンが
なんでこんな香港人を貶めるような
映画に出てる、つか
作ってんのよ?

中国の検閲の影響が大きいと思われるが。

なんせ"正義"を司る

公安警察が銃撃戦で死んじゃいけない

らしいので。

www.sankei.com

 

趣味悪すぎ!
日本軍が
あからさまな悪として描かれている
伝統的反日映画
『レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳』
のほうがまだマシ。

 

監督や役者交代に関して訴訟・殺人など、
とすったもんだのこの映画。
そもそもこんなダメな脚本、
よくまあ最後までやったよな?
とはっきりいって呆れたんですが、

ドニー・イェン曰く、  

自分までこの映画を放りだしてしまっては、
ずっと働いてきた何百人ものスタッフが
一瞬で失業してしまうじゃないか  !!

日本で誰も書かないから書いてみた、大陸監督檀冰の事。 | ケイコママのバクダン酒場

とのことのようです。

 失業してしまうじゃないか !!

 そ...そっすよね。兄貴の言うとおりすよ。

カッコいい...。

(この一言だけでバカな
ワタシは感動してしまう)
やりぬいたのは素晴らしいと思います。

 

猛バッシングの中

やりぬくにはなみなみならぬ

精神力及び太太(タイタイ、奥さん)

のチカラ必要だったらしく、

この映画完成直後、

めっきり涙もろくなってしまった

ドニー兄貴。

 

youtu.be

 

「いろいろ問題があって…」

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(あんなことやこんなことを思い出し中…)

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肩を叩かれ退場。

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宇宙最強的漢在哪里?

えええ! 

宇宙最強の男はどこに?!

 


でもね、

やっぱりセンス疑うよ。


救いは渾身の
アクションパートだけです。
(それすらもっと
男の戦いの美学を強調できたはずだが。)

正直、アクションだけ、
でいいかな。
ストーリーのない
メーキング映像のほうがはるかに良い。

 

 

youtu.be

今一度このメーキング見たら

クラレンス・フォ監督、1秒も出てなかった

(しかも後ろ姿)。

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(80年代後半風パーマで0.5秒登場した監督)

 

育児放棄もいいとこだぜ。

なんでも、彼がいなくて

実質ドニーさんが

撮影を仕切ってたらしいけど

そういえば

主役なのにやたらみんなを

ねぎらってるな。

(ギターまで弾いて。)

崩壊する学級をまとめる

学級委員長兼番長

みたいに健気なオレ。

 


一番情けないのは、

ラストのせっかくの死闘が

男と男の義を賭けた闘いであり、
そこには国とか制度とかを超えた
完全に自由な領域(フィールド)
であるべきなのに、

(だからこそ男たちは
「ふふふ、この手応え、
オレはそんなお前を待っていたぜ…」
と微笑み合い、
負けたら潔く死ぬ。
まさに「狼よ静かに死ね」なのである)

 

<激アツな戦いの図>

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『SPL/狼よ静かに死ね』(ウィルソン・イップ) - 愛すべき映画たち

香港中国返還前、

つまり本土に言わせると「暗黒期」

という設定で見事検疫を突破した

イップ監督の名作。

 

なのに、この映画では

非正規雇用者(潜入捜査官)が
正社員(警察官)になるための
昇進をかけたポイント稼ぎ

として描かれている点。

 

スーパーの買い物の帰りに
本土女に警官復帰を言い渡され
飛び上がって喜ぶなんて…。

ぬるい。月曜ドラマかよ?

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このシーンの

ドニーの嬉しさ全開モード、

他のシーンと合っていないし。

キャラからしてありえねー。

オレが散々言ってる

「大陸的誇張表現」の最悪の例だね。

sean.thewhatsgoodconspiracy.com

 

youtu.be

 

右に同じだぜ、Dr.Sean Tierney!

要は、ダッセーんだよ。


神アクションが、
正社員復帰のための

卑俗な行為として
矮小化!!

あーあ。

 

後味が悪いので素敵な笑顔でシめる。

 

4 関連

 

同じく香港・中国合作の
『レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳』

 

5 最後に

 

香港民主化、本土派を応援する
ワタシとしては、
『導火線』のインタビューで、
ぜったい「香港映画」としか言わなかった
ウィルソン・イップ監督との
香港映画の仕事に
集中していただきたいです。

(ドニー・イェン自身は
同じ作品のインタビューで
多分意識して「中国映画」を
連発していましたが

それは立場的が違うため理解できます)

これはイップ監督が
香港映画監督だからという
だけではなく、
人間ドラマをきちんと描くことが
できる力量を持った監督だからです。

そして、今のところ
香港には表現の自由があります。

 

映画は☓☓が「命」〜!

(中華人民共和国国家新聞出版広電総局 検閲済)