余華の『血を売る男』で文革以降の中国庶民生活のイメージを掴む。ちょっとジンともくる。

(3分で読めます)

1 はじめに…


『血を売る男』は余華の中編小説。

『ほんとうの中国の話しをしよう』が良かったので

読んでみたら結構面白かったです。

 

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余華 - Wikipedia

 「おいコラ、誰に断って写真載せてんねん…」

うーん、いいお顔。

 

2 余華って誰?

 

1960年杭州生まれ(上海から高速鉄道で1時間の街)、
現在北京在住の作家。

文化大革命体験後、

歯科業(抜くの専門)に従事。

2005年発表の『兄弟』がベストセラー。

 

この作家、ええ面構えしてはります。

根性入ってます。

さすが無免許で数知れない歯を抜いてきただけあります。

(注意:当時の中国では医学校に行かなくても歯医者になれた)



3 何が書いてあるの?

 

主人公は製紙工場の繭運搬係。

生涯一工員の平凡な男です。

しかし、中国という国そのものが

劇的な変化を遂げたことにより、

彼の人生も揺れ動かざるを得ません。


文化大革命から現代にかけ、

人生のピンチ(主にカネの苦労)を

売血で乗り切る男の話。

 

でも中国では、ヤミ売血行為って今も盛んなんですね。

 

 

この記事によると採血ブローカー(血頭)は

買った血液を4倍以上で売りさばいています。

 


4 一押しする理由!

 

淡々とした語り口で読みやすい。

だけど、お笑いと人情たっぷり。

基本苦労話なんで。

 

とても面白く読めるんだけど、

文化大革命以降の中国の歴史も

しっかり理解できる、

お得な小説です。

 

余華が『血を売る男』の後に発表した『兄弟』上下巻など、

中国の現代小説は長めなのですが

この本は中編小説なので、その点もとっつきやすい。

 

中国現代小説を初めて読む人には特にオススメです。

 


5 では、三ヶ所ほど読んでみましょう



p.3

 許三観(シユイ・サンクアン)の製紙工場の繭運搬係だ。

この日は村へ帰り、祖父のもとを尋ねた。

祖父は年のせいで目がかすみ、戸口に現れた許三観の顔が

見えなかった。

そこで許三観を近く経予備、しばらく眺めてから尋ねた。

「せがれや、お前の顔はどこだ?」

 許三観は言った。

「おじいさん、おれはせがれじゃなくて、

あんたの孫だよ。俺の顔はほら、ここに……」

 

ふつーの人のふつーの会話ですよね。

大時代がかってなくて自然。

余華は魯迅の影響を受けているそうですが、

そういえばこんなふうなトボけた会話があったような…。

(もっと余華によると、文革時代に許された書籍は

『毛沢東語録』と魯迅の小説のみだったらしい)



次は許が初めて血を売ったあと勝利飯店を

訪れるシーンです。

 

p.16

阿方が店員に注文した。

「豚レバー炒め一皿、紹興酒一合、紹興酒は温めてくれ」

根龍も叫んだ。

「豚レバー炒め一皿、紹興酒一合、紹興酒は温めてくれ」

 許三観は二人が注文するのを見ていて、

叫びながら机を叩く様子がいかにも得意げだと感じた。

そこで二人をまねて、机を叩きながら叫んだ。

「豚レバー炒め一皿、紹興酒一合、

紹興酒は……温めてくれ」

 

その後も許は売血するたびに豚レバーで

紹興酒をやるようになります。

余華の会話のリズム、

なんとなく小津安二郎の映画みたいで楽しいです。



さて、初めての売血で得た現金で、許は評判の美女を口説きます。

 

p.26

 翌日の午後、許三観は許玉蘭を連れて勝利飯店へ行き、

窓際の机の前にすわった。

阿方や根龍と一緒に豚レバー炒めと紹興酒を

味わった席だ。

彼は阿方と根龍をまねて、

机を叩きながら店員に注文した。

「小籠包を一人前」

「小籠包が二角四分、ワンタンが九分、話梅が一角、

飴は二回買って二角三分、

スイカは半分で一・七キロだから一角七分、

合計八角三分だ。……おまえ、いつおれと結婚する?」

 

小籠包をおごったんだから結婚しろと迫る許。

女性に生理があることも知らないのに…。

 

 


6 関連書など


余華のベストセラー『兄弟』


7 最後に


『血を売る男』を読むと文化大革命以降の

中国の庶民生活のイメージがつかめます。

 

見方によっては苦労に満ちた悲惨な貧しい男の生活を

ユーモアですくい取るように描く

余華の人生観は感動的です。

 

中国現代小説を読んだことがない方に特にオススメです。

中国を見る目がちょっと変わります。