えげつな! 余華の『兄弟(上)文革篇』

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「えげつな!

おまえ、こんなの読んでんの?!」

余華の『兄弟(上)文革篇』を
ふと手にとってパラ読みした家族の口から

もれた叫び。

そう、女便所のケツの話から始まる
えげつない小説。
それに続く怒涛の感動ドラマ。
なんなんだよ、これ。

 

 

2 余華って誰?

 

毎年の行事として村上春樹氏が
ノーベル文学賞に取り沙汰されている。

しかし実は中国作家の
余華(ユイ・ホア)も
毎年検討されているらしい。

 

 

3 何が書いてあるの?

 

スケベガキ李光頭(リー・グアントウ)と
その義兄の宋鋼(ソン・ガン)が
ありえねー時代、
文化大革命期をサバイブする。

文革期の「紅衛兵」の横暴の描写については、
これで検閲が通ったことが不思議です。
現在の党指導部は「文革は誤り」
としているからでしょうか? 

www.nikkei.com

 

 

4 一押しする理由!

 

面白い。

 

これにつきます。
余華の小説の中でも大ベストセラーに
なっただけあります。

ディケンズやユゴーの時代の
「小説が小説だった頃」を彷彿させる、
小説らしい小説。
上下二巻のボリューム感とか、
かなり俗っぽいところとか、
ベタな泣かせとか、ね。

笑える、泣ける、感動できる。

 

5 では、三ヶ所ほど読んでみましょう

 

いつもならネタバレ御免の勢いで
本の内容を書いてしまうのですが、
この小説を本当に楽しんで読んでいただきたいため、
特に最初の方をちょっとだけ紹介させていただきます。

 

p.6

我らが劉鎭(りゅうちん)のスーパーリッチ、
李光頭の奇想天外な発想とは、
二千万ドルを投入してロシアの宇宙船
「ソユーズ」で宇宙を遊覧してくるというものだった。
いたるところでその存在を知られた
金メッキの便器に座りながら、李光頭は目を閉じて、
自分が宇宙の軌道を漂う生活を想像した。
周囲はどこまでも果てしなくひっそりしている。
壮麗な地球うがゆっくりと目の前に広がってゆくのを
俯瞰しながら、李光頭はわけもなく悲しくなって
涙をこぼした。
ようやく、この地球には自分の家族はもはや
ひとりもいないのだということを実感した。


小説の冒頭です。
いまや「リッチにはなったけど…」と
日本の80年台のような満足感と同時に孤独を
感じるシーンは、
中国現代小説ではお馴染みといっていいでしょう。
ただ、この場合、李光頭は宇宙旅行にもいけちゃう
超大金持ちなんですが。
そう、この李光頭こそ文革を生き抜いたスケベガキ
なのです。

 

そして私の中で映画化された『兄弟』
において李光頭のキャスティングは
ファン・ボーです。

 

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黄渤_百度百科

君ならなんにだってなれるよ、ファン・ボーくん!

 

p.7
しかし、十四歳になった年に、李光頭が公衆便所で
五人の女の尻を覗いているところを捕まってからは、
母親の見方は根本的に変わった。

「この父にしてこの子ありだわ」
 李光頭は血のつながった父にあったことがない。
彼が生まれたその日に、彼の父は臭気を天までくすぶらせて
この世を去っていった。溺死だった、と母は言う。
どんなふうに溺れ死んだのか、李光頭は聞いてみた。
小川で溺れたの? 池で溺れたの? それとも井戸で溺れたの?

彼の父親は、便所で女の尻を覗いているときに、
うっかり肥溜めに落ちて死んだのであった。


悲惨な死、というにはあまりにも臭い死である。
こうして死んだ親の代からケツの話が続くのです。

でもこんなのばっかりでもないのです。

父親の死をきっかけに、李光頭の母親は、
宋鋼の父親、背が高く人徳のある頼りがいのある中学教師
宋平凡(ソン・ファンビン)と出会います。

以下は馴れ初めの頃、宋平凡のバスケットボールの試合を
李蘭が観に来るシーン。

 

p.56

試合が終わると、宋平凡はあせびっしょりになった
ランニングを脱ぎ、李蘭はそれを受け取った。
その汗臭いランニングは、赤ん坊を抱いているかのように
彼女の胸に抱かれた。
四人は冷たい飲みものを売っている店に入った。
腰を下ろした時、宋平凡のランニングが李蘭の白いシャツの
胸のあたりを揺らして、二つの乳房がかすかに透けて見えていたが、
彼女はまったく気づいていなかった。

 

さりげないけど、計算された描写が、
余華の尊敬する魯迅の影響を匂わせます。
このあと二人は幸せの絶頂を迎え、
そんなある日…とドラマは続きます。

私の脳内映画『兄弟』において
この宋平凡の役には
若いころのチョウ・ユンファを想定。
(レオン・ライも考えましたが。)

 

 

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周润发_百度百科

以徳服人(徳をもって人を服す)

孔子

 

6 関連書など

 

『兄弟(下)開放経済篇』
(上)を読んだら読むしかないでしょう。

 

7 最後に

 

中国現代文学?
地味そう。
素朴すぎて、退屈では?
日本の悪口ばっかじゃなくて?

しかし、周星馳は香港から
中国へと制作の場を広げても
面白い映画作ってるしなあ?

と、迷われているあなた、
余華の『兄弟』は
読んどいて絶対損はないです。